『君は……』


(怖い――)


『命の恩人だ!』


『え……?』



 はしゃいでファウラの手を握りしめたのが、伯爵家の長男エドガー・ロウハーン。

 こうして助けた恩返しがしたいと素性も碌に明かさないファウラを疑う事なく、彼は自分の屋敷へと迎え入れた。周りの大人達は必死に止めようと動き出すのを見て、これが正常な判断だと冷たい目を向けられるのが怖いと思うのに、壊れたファウラの心はそれを望んだ。

 大の大人達に抑えつけられこちらを見て見ぬふりをされるのだろうと、自分から退こうとしたがエドガーは再び手を握ってくれた。


『この子は僕の命の恩人で、大事な友人だ!それ以外の理由を必要とするのなら、僕はこの家の跡をついだりしない!こんな小さな女の子を蔑ろにする大人達と共に領地を守ってなんかいきたくない!』


 真剣なエドガーの訴えに周りは大きくざわめくが、彼の父は拍手を送った。立派な考えだと、当時は褒められていたが、後々聞いた話ではファウラを匿った後にこっ酷く叱られたらしい。

 それでも、エドガーは傍に居ることをやめなかった。

 その優しさに触れたファウラもまた、彼に習うように人の事を思いやる健気な少女へと成長していった。

 彼がいたからこそ、今の自分が出来上がったと言っても過言ではない。街の民もファウラを受け入れ、自分の街の子のように大切に育ててくれた。

 ファウラの母親もエドガーの屋敷で丁重な療養と腕のある医者の治療を受けさせて貰い、最悪な状態から目まぐるしい回復を遂げている。

 だからと言って完全に回復したわけではなく、月に一度意識を取り戻すかどうか。それでもファウラは感謝してもしきれない程の想いだった。