閉じていく扉を見つめて遠ざかっていく足音を聞きながら、ルイゼルトは感じたことのない気持ちに服の上から胸を握り締めた。力強い鼓動は全身を伝わり、体を熱くする。

 完璧に足音が聞こえなくなっても、その胸の鼓動は治まる事を知らない。

 彼女に触れた感覚が妙に熱を帯びる。



「あんなの反則だろ……」



 いきなりやって来たかと思えば、自分が勝手に押し付けるように置いてきた焼き菓子にお礼を言うだけではなく、昨日の態度にしおらしく謝って真っ直ぐに見つめてくる。そんな突風のようなファウラに、ルイゼルトは巻き込まれていくように自分の想いを口にしていた。

 自分の言葉で他人を傷つけることにはとっくの昔に慣れていたはずだというのに。

 ファウラを傷つけてしまったことに深く傷つき、素直に謝っていた。

 思えば、昨日の自分の言動も子供のように感情をぶつけていたことが少々恥ずかしかったのだ。

 せっかく一緒に朝食を囲めるというのに、他人行儀な態度と怯えた様子を見て、ルイゼルトは自分に苛立ちを感じた。嫌われ者を自分で選択したというのに、縮まらない距離感が存在する事が許せなかった。

 それでも綺麗に着飾ったファウラの表情を晴らしたい想いで声をかけるが、声掛けに失敗した上に、側近のユトには懐いているのを見て、怒りの沸点が頂点に達した。彼女からの誘いも自ら断ってしまったことに深く後悔するなど思わずに。