美形と享楽が大好きな異母姉が、残忍で気に入らない物は全て排除する恐ろしい相手に、嫁ぐと言う決断をしたのもおかしいと疑うべきだったのだ。

 血が繋がっていると思いたくない人達の手の平で、まんまと踊らされていた事に怒りが滲む。



「ファウラ。上手い事、僕が時間を稼いで婚姻を第二王女にさせる方法でも考えよう。こんな汚いやり方をしてまで君を追い出したいって考えている奴らに何もしないなんて僕が許せない」



 王家の人間を侮辱すれば命は簡単に消し飛ぶと言うのに、エドガーは本気の怒りを宿した目でファウラに本音をぶつけた。幸い馬車の中での会話を聞いている者は誰も居ない。

 真直ぐな瞳に見つめられ、懐かしい記憶と優しい気持ちに包まれる。



(出会った頃と何も変わってないなあ……)



 王宮から追い出され、行く当てもなくこれからどうやって生きていけばいいのか分からないまま、不審がられてどの街でも追い返されてばかりだった。何とか命は繋ぎ止めてはいたものの、母親の状態が緩やかに悪化していく日々に怯えていた。

 これから先、この世界で唯一愛する人を失ってしまったら。そう考えると震えが止まらなかった。

 馬車の中だけが自分達の生きる世界になってしまうのかもしれない、そう半ば覚悟していた時だった。

 与えられた僅かな金銭が底を尽きかけ、食料を探しに森へと入った。流れてくる悪しき穢れの力を感じ、周囲を探索していると、力尽きて倒れている少年を見つけた。

 悪しき穢れの力を浴び、意識を失う程に衰弱していた。慌てて力を使い浄化を試すと、意識を取り戻し瞬く間に顔色が元に戻り意識を取り戻した少年を見て、安堵するのと同時に罪悪感に蝕まれた。人前で使ってはいけないと、まだ会話が出来る状態の頃の母親との約束を破ってしまったのだ。

 このまま、また王宮にいた頃のように冷たい目を向けられて、自分に失望するんだと震えそうになる身体を誤魔化そうとした。