婚姻の知らせを受けたファウラはエドガーが用意した王宮へと向かう馬車の中で、窓の外でゆったりとした時間が流れる空を見て溜め息を零す。


「振り回してごめんね、エド」

「気にしないで。こんな緊急事態に付き合わない方がおかしいんだから」


 向かいに腰掛けるエドガーに済まないと頭を下げ、改めて受け取った手紙をまじまじと見つめる。

 今更自分を王女の立場として利用するなんて思いも寄らなかったのだ。正妃がファウラを王族の一員と認めてまで、今回の件を全て押し付けようとして来ていると思うと先が思いやられる。



「ここにきて良いように使われるなんて、本当にいけ好かないわ」


「確か、本来なら第二王女様が嫁ぐ事になっていたはずだよね」


「ええ。お姉様はなんて言って、国王に強請ったのか見物ね」



 正式に第二王女が大国との婚約を結ぶ事は城内で発表されていたのだ。まだ民衆へ発表がされていなかったのが、不幸中の幸いか。ファウラにとっては勿論不幸でしかない。



「しかも悪魔王ときたか……」



 エドガーは手で顔を覆うようにして、声を籠らせた。

 悪魔王――大国クラネリシアを統べるルイゼルトにつけられた二つ名。

 その名を聞いて知らない者は、この大陸には居ないだろう。

 一年前まで続いた大陸での戦争で負けを知らない不滅の王。大陸の半分以上を支配下にし、王座についてからたったの五年で弱小国だったクラネリシア国を大国にまで引っ張り上げた。

 そこまで至った力は、彼の力のみではなかった。全てを手に入れようとするその傲慢さが、彼をある存在を引き寄せた。

 幾千年と封印されし悪魔と血と血の契約を交わし、人とは掛け離れた強大な力を手にした。戦場に出れば、その力に勝てる者は誰一人としていない。剣を屠り、血を浴びることを至上の喜びとする姿は、正しく悪魔だったと敵味方関係なく兵士達は噂した。

 いずれ世界を征服してもおかしくない程の威圧する鋭い眼光は、平和をもたらした英雄と分かっていても自国の民からも恐れられているらしい。