クラネリシア国へとやって来てから早五日目の朝を迎えたファウラは、侍女にドレスの着替えを手伝って貰いながら、飾られた花を見つめた。

 恥ずかしい思いをしたあの日以降、ルイゼルトとは顔を合わせてはいないが、こうして気が付かない間に毎日色とりどりの花が差し替えてあるのだ。彼が用意した物であることは、侍女から聞いている為間違いではない。

 ただファウラの居ない隙を狙ってなのか、花を差し替えにくる姿を一度も見ていない。

 嫌味を言ってくるとは言えども、こうしてファウラの気を使ってわざわざ動いてくれていることに対して、直接お礼を言いたいというのにそれが出来ないもどかしさが募っていっていた。




(お礼も何も言わないままでいるのが息苦しいのに、会ったら会ったで逃げ出しそうな自分がいるのよね……)




 生まれてきて十七年間、初恋というものすらしていないどころか、異性というものを意識してこなかったファウラにとって、中々壁の高い問題に直面していた。このままずっと結婚相手に向かって恥ずかしさのあまり、顔を合わせるのができなかったらどうしようと頭を抱えてしまいそうだ。

 悪い人ではないとそう思えるようになり、いつかきっと距離を縮められるはず……そう思えば思うほど顔が合わせずらくなるばかり。

 考え悩むファウラを他所に、腰に大きめのリボンを巻いて、いつもよりも気合いの入った空色の華やかなドレスに侍女達は、顔を見合わせて満足そうに頷いた。