乱れた荒い呼吸はしっかりと肺に行き届いておらず、青紫色になった指先は氷のように冷たくなっていく。急激に冷たくなった体は、体温を取り戻そうと震えを起こす。
急を要する状態に、侍女が持っていた肌掛けを枕代わりにするように頭の下に置いて、ユトを呼びに行こうと立ち上がろうとするが、見えた黒い影に目を見開いた。
(悪しき穢れの力……!?)
侍女を覆い尽くすような黒い影が、地を這って広がっていく。その影は一つの塊になり、悪魔のような姿形を象った。
見たこともない光景に、驚きのあまり固まってしまう。
ここでユトを仮に呼んだとしても、広がる黒い影にユトも触れてしまえば、同じように苦しむ可能性もある。ここは確実な手段として浄化の力を使うべきだろうが、守りたい人の顔が頭に浮かぶ。
万が一、タイミング悪く力を使っている時にユトが戻ってきたら、力の存在を知られ、国同士の戦争や家族が危険な目に合うかもしれない。それだけは避けなければいけないと、先程確認したばかりだ。
だからと言って、自分しか助けられない人が目の前にいるというのに、それを見て見ぬふりをしてやり過ごすことは絶対に出来ない。
どちらを取るか、考える暇はもうない。
(見ず知らずの私を心配してくれた人が苦しんでるのに、何もしないなんて絶対に出来ないっ……!)
迷いなく祈るように両手の指を絡ませて、影を帰す歌を紡ぐ。浄化の力は、ファウラを包み込むように光を宿す。



