ただそんな堅固な造りの華美を求めない城内にも、可憐に咲く花々が色を添えるように咲き誇る庭園が見えた。花壇に咲く花から低木に咲く花まで、丁寧に手入れが行き届いており、見る者の心を魅了する秘めた力を持っていた。

 思わず足を止めてしまうと、ユトは進路を変えて庭園へと足を伸ばした。

 レゼルト王国では珍しい花や、数十年に一度しか咲かない希少な花などが歩く道を彩る。




「とても綺麗ですね」


「花、好きなんですか?」


「はい。見ていて心が安らぐというか……」




 風に舞う花の香りは気持ちを落ち着かせ、気持ちまでも華やかになるその色彩は見ていて飽きることはない。花の美しさは、いつだってファウラを明るくさせる。

 庭園を暫く歩くと噴水が見えてきて、心が踊った。

 王宮にいた頃も庭園に密かに訪れたこともあったが、見つかれば虫を払うように追い出されていた。そんな思い出しかないが、ここは違う。

 ファウラを歓迎するように、キラキラと水しぶきが妖精のように踊る。波打つ水面には、どこからか舞い降りた花びらが滑るように流れていく。



「気に入って頂けましたか?」


「はい。とっても」


「良かった。これでファウラ様が花に興味がなかったら、あの人はまた頭を抱えていたことでしょう」


「?」




 あの人とは誰かと聞く前に、歩き出したユトに合わせて歩くしかないファウラは、聞くことを止めた。

 暫く庭園内を散歩してから再び城内へと戻り、生活の拠点となる自室の場所、浴場、図書館、医務室……日常生活で多く訪れる事となる部屋の位置を粗方覚えながら歩く。



(王宮で暮らしていた頃なんか、こんな数多くの場所に入ることすら許可されていなかったけど……やっぱり、こう歩いてみると王の住まう場所って無駄に大きいわね……)



 古い離宮に追いやられ、息を潜めて生活していた頃を思い出し、当時は世界がどれほど窮屈だったのか思い知る。