「ファウラ様、やはりどこか具合でも……」
「ううん。ごめんなさい、考え事をしていただけよ」
「陛下もずっと心配していましたよ」
「え?」
予想外の言葉に、後ろでリボンの微調整をする侍女の手を止めさせるように思わず振り向いた。
あれだけ嫌味をぶつけてきたルイゼルトが、自分を心配していたなどと考えても居なかったのだ。
「陛下が、私を……心配?」
「はい。一晩中ずっと付きっきりで。口止めされていましたけど、その花も陛下が用意した物なんです」
花瓶で可憐に咲く花にもう一度目を向ける。
今回の政略結婚は、同盟を確かなものにするためのものであって、自分は駒の一つにしか過ぎないとどこかで思っていた。
王女と知らなかったとは言え、嫌味を投げつけられ、先程も弄んできたルイゼルトが自分を心配していたという事に、少々驚きを隠せない。
「悪魔王と名高い陛下ですが、あんな陛下を見たのも我々も初めてでした」
「そう、なの?」
「陛下も何か変わられるきっかけが出来た、そういうことなのでしょうね」
「……?」
侍女達の言っている事がよく分からず首を傾げるファウラは、出来ましたと嬉しそうに笑う彼女達に姿見の前へと連れられて行く。
春を感じる淡い桃色のドレスに身を包んだファウラに、侍女達は次から次へと彼女を彩らせるように、化粧を施し髪を結い上げていった。