(っ……!)



 驚きのあまり声を出しそうになるのを何とか堪えたファウラは、部屋の長椅子で横になって規則正しい寝息を立てるルイゼルトが居た。



(もしかして私、この人の寝台奪って寝てたり?!)



 良からぬ事がぐるぐる頭の中で回り、ファウラは百面相のように表情をコロコロと変えて状況を把握しようと口をパクパクと動かした。そんな彼女にうるさいというように、ルイゼルトが小さく唸る。

 唸り声に体をビクリと反応させて、改めて寝ているルイゼルトを見つめると、整った顔立ちに思考が停止していく。

 滑らかな肌に彫りの深い顔立ち、高く通った鼻筋、潤んだ唇……まるで美術品の彫刻のような風貌に、ファウラは思わず見惚れた。長い睫毛の影が落ちる瞼の裏に、あの吸い込まれる紅い瞳が眠っているのだと思うと、妙に胸がざわめく。



(昨日は驚きと怒りで意識することなんかなかったけれど、改めて見るとすごく綺麗な顔……)



 起こさぬように忍び足で近づいて、寝ているルイゼルトの顔を覗き込むように、静かに長椅子の前でしゃがんだ。



 無意識に彼の顔に触れようと手を伸ばすが、乱れて開いた服の襟元から、胸元から鎖骨に伸びる茨のような痣が見えた……ような気がした。

 痣をまじまじと見つめるよりも先に、先程までは瞼に蓋をされて見えなかった紅い瞳が、こちらを見つめている視線に動作が止まる。