ここまで来て忌み嫌っていた人達の顔を思い出す必要もないと、そっとドレスを再び仕舞う。

 部屋の中をぐるりと見渡して、見つけたクローゼットへと歩み寄り、両開きの扉を小さく開ける。中には品のいいドレスと、ここまで着てきた花嫁衣装が皺にならないように掛けられていた。

 こうやって並べられると華やかさは負けるが、それでも大切に扱われていることに顔が綻んだ。

 王女らしからぬ態度でルイゼルト王に突っかかってしまったというのに、その対応はとても丁寧だと言う事が伺えて、一先ず安心する。



「勝手にドレス借りて大丈夫かな……」



 荷物が置いてあるとは言え、ここが本当に自分に用意された部屋なのかどうかも分からない為、クローゼットの中のドレスを自分の物のように扱うのは少々気が引けてしまう。

 まずは部屋の扉を開けて、辺りを確認することから始めようと、ドレスへと伸ばしかけた手を引っ込めてクローゼットの扉を閉めた。


 花嫁道具の中に忍ばせておいた、街の宿屋の看板娘のアンリから作り方を教わって、一緒に作った羽織物をとりあえず着て動き出す。

 だが部屋の中で自分以外の物音が聞こえ、そちらに向かって視線を送れば、ファウラの大きな目が丸く見開かれた。