悪魔な国王陛下は、ワケあり姫をご所望です。




 おかしなことを考えないようにと、少女の事を調べようと周囲を小さく見渡す。馬車はそれなりには立派だが、扉の内側に小さく刻まれた紋章は、ルイゼルトの記憶にはそれらしいものは見当たらない。




「どこの世間知らずのお嬢様か知らねえが、命を溝に捨てたくなかったら、とっとと帰れ」




 幸せになるために出てきたというのに、不幸に包まれて欲しくなかった。

 命を無駄にするな、そう叱りたかったのに言葉は上手く出てこない。終いには何故金目がなさそうなこの馬車を山賊が狙ったのか分からず、ぼやく始末。


 恐怖からか、安堵からか動けなくなっている少女を座席に座らせ、今は帰すことよりも安全なマージェに向かわせるべきだと、騎士の一人を呼ぶ。自分達が表立った行動をしている訳ではないため、町の住民を装うように指示を出し、少女を送らせた。

 走って行く馬車を振り返らずに馬に跨ったルイゼルトだったが、一瞬感じた優しい温もりに思わず窓からこちらを見つめる少女を見つめた。

 だが見つめることを止めて、自分にはやるべき事が残っていると馬を走らせた。彼女の瞳に魅了されている暇などないのだと、手綱をきつく握り締める。



(王女と結婚できれば、この国もますます安定する。俺の国のためなら、俺は何だってする。あの子が、幸せに生きる未来を俺は――)



 今は逃げた山賊を追う事に集中する。王女を婚約者と迎え入れるための、準備を整えなくてはならないのだから。だが妙に、少女の花嫁姿に気持ちを奪われているようで気持ちが落ち着くことは無かった。