御者も己の命惜しさに逃げ、山賊に取り囲まれ襲われたら最後、取って食われる運命から逃れることができない状況になっていた。

 敵を薙ぎ払い深手を負わせると、分が悪いと判断したのか去っていく山賊を部下に追わせた後、馬車の扉を開ければルイゼルトを真っ直ぐに見つめる蒼い瞳が揺れていた。


 花嫁姿で絶望的な状況を打破しようとする強い想いを宿す一人の少女が、ルイゼルトを見つめて離さない。

 


(震えている)




 状況が状況だ。襲われて怖い想いをしない方がおかしい。

 ただ、なぜこんな身なりをした令嬢が護衛も付けずに居るのかが不思議だった。ここ一帯の領地では、山賊の被害が出始めている地域。それを知っていて、命を無駄にするように駆け落ちのために護衛を付けなかったのだろうか。それは、いささか腹立たしいとルイゼルトは少女を見つめた。






 ……真っ直ぐに見つめる蒼い瞳にこの場において心奪われてなどいないと、己を叱責しながら。