黒い闇が渦を巻いて進んで行くのを、ルイゼルトは見逃さなかった。例え、今日が国同士の大事な日を迎えようとも、そこに対峙する存在がある限り突き進まなければならない。

 この国の平和を脅かすものは徹底的に排除しなければいけないのだと、懐中時計が示す時刻を見つめながら自分に言い聞かせるように小さく息を零す。



「陛下。本当にユト様に知らせずここまできて宜しかったのですか。本日はレゼルト国の王女が――」


「間に合わせる。彼女が来る前には城に帰れば何の問題もない」




 騎士の問いに即座に答えたルイゼルトの確固たる態度に、周りは着き従うしかない。懐中時計を胸ポケットに仕舞い、感じる気配の方へと首を動かした。

 やってくる王女の無事を守るために、今は動くしかない。両国の同盟において重要な今回の婚約相手を奪われる訳にはいかないのだ。友好関係を築いたうえで、広がる世界の資源は膨大なのだから。

 自分が求めるものを誰かの手で壊されるのは、黙っておけない。



(まあ、そんな不運には振り回されることはないだろう)



 出迎える侍従は元より山賊からの迂回ルートを使うように命じて、真正面から突っ切っていけばいいそう思って潜む影を追い求めて行ったそこで、有り得ないことに奴らは一台の馬車を襲っていた。

 不運な事に本来別ルートで南の方角に拠点を移していた山賊が、どういう訳か迂回するために選んだ道に現れていた。探す暇が省けたのはいいものの、この道は王女も使う道なのだ。若干の焦りが滲む。