国境付近の少数民族一族の長の娘、それがファウラの母親。特殊な力を持つ彼女に惹かれた国王は、側室として母親を迎え入れた。

 いきなり迎え入れた側室に、王妃は黙って居なかった。だが、もう彼女の中にもう一つの命が誕生していたのだ。

 それがレゼルト王国第三王女、ファウラ。

 彼女が生まれてからというもの、周囲からの当たりは強くなる一方で、出産の際に身体を壊した母親は寝たきりとなった。

 物心ついた頃には、陰湿な義理母からのいじめと母親への愚弄に耐えれなくなった。父である国王も何も手を貸してくれることはなく、傍観するのみ。

 おまけに悪しき穢れの力を見ることが出来たファウラは、悪魔の子だと忌み嫌われ酷い仕打ちを受け続け、命を狙われる事もあった。

 ただ自分が何か行動を起こせば、母親の命さえも危険に晒されると思うと、この地獄のような日々を我慢するしかなかった。

 震える身体を薄い古びたシーツで身を包み、誤魔化しながら何度息を潜めて寝た事か。その記憶は、今でも鮮明に覚えている程、毎日が生き地獄だったのだ。

 やはりここに自分の生きる道はないのだと思い知ったのは、ファウラが十二歳の誕生日を迎えた日。

 勝ち誇った笑みを浮かべる義理母は、国王が下した命令を嬉しそうに告げた。



『ここに貴方達の居場所はないの。出て行きなさい、忌み子』



 病弱な母親を馬車に乗せて王宮を離れる際に、見上げた空はどこまでも続いていて、そこでファウラは初めて涙を流した。



『綺麗な空……』



 辛い毎日から解放された安堵に、母親を無事あの窮屈な世界から引き剥がせた事への安心感に、広い空が示す自由――涙を流せば流す程、それがファウラの心を前向きにさせてくれたのだ。