どこか分が悪そうに、顔を顰めた男は聞き覚えのある溜め息を零す。




「嘘だろ……」




 男が零した言葉に、ファウラも同感だった。

 運命の悪戯は、いつだって予想外なことばかりなのを知っていても、受け入れるのには時間を要する。




(あの時、私を助けてくれた人、よね……)




 お礼がしたい、そうは思っていたがこんな形での再会は望んでいなかった。

 散々馬鹿にするように言ってきたのを、忘れてはいない。それに、この吸い込まれるような紅い目も。

 考えるのを放棄しようとも思ったが、重たくなっていく空気にとてもじゃないが耐えられなくなってきた。ここは意を決して、レゼルト王国の王女として、しゃんとした態度で男に向き直った。



「初めまして。私、レゼルト王国第三王女ファウラ・レゼルトと申します」



 本当だったら、立場など気にせずに、いやいやこんなの嘘でしょ?!と叫びたい気持ちを堪えたファウラの瞳は、動揺を隠しきれていない。男は重たい溜め息を零してから、気を取り直すように玉座へと向かう。

 威厳ある態度で玉座に腰掛けると、凛とした声で空間を震わせた。




「我が名はルイゼルト・フォール・クラネリシア。よくぞ参ったな、我が妻よ」



 例え豪華な服を身に纏っていなかろうが、そこに漂う空気は王族が放つ気高い空気そのもの。突然重たくなった空気に、一瞬だけ気が遠のきそうになる。