目の前の男が敵なのか、味方なのかも判断が出来ず狼狽えていると、溜め息が聞こえたかと思えば力尽くで立たせた男がそのままファウラを座席に座らせた。

 外は思っていたよりも静かで、身に感じる気配も何もなくなっていた。山賊の姿は何処にもない。



「マージェまで送り届けろ。追跡はこのまま続行する」



 何やら外で男の指示のような声が聞こえるが、未だ呆けた頭では何をどうしていいのか分からない。色々と確認したいことだらけだというのに、馬車はゆっくりと動き出す。

 窓の外で男が軽々と馬に跨り、ファウラが進んできた道を辿るように進んでいった。一瞬だけ目が合ったような気もするが、その紅はすぐに森の緑に溶け込んで消えた。

 遠ざかっていく複数の蹄の音を聞きながら、ようやく緊張して力んでいた力が抜けた。



「まるで嵐のような人だったわね……」



 独りごちるファウラは、息を零しながらあの紅を思い出す。

 人を魅了して離さない、瞳の奥底で輝く光。捕えられたら最後、全てを支配する力を持っていた。

 どこか寂しげに映ったのは動揺のあまりそう見えてしまったのか否か。

 ただそれにそぐわない彼の言葉を思い出し、苛立ちを隠せない。