突如聞こえてきた男達の叫声と剣戟に遂に身体が動かなくなった。暫くして、辺りはどんどんと激しい音に包まれていく。



(どうして私の人生ってこうも誰かに振り回されるの?今度は絶対に幸せになるって、そう決めたのに!嫌!こんなの絶対に嫌なんだからっ!!)



 送り出してくれた大事な家族を思い出し、運命に逆らってやる勢いで無理矢理身体を動かして扉を睨みつけ開けようとした。

 パッと差し込んでくる光の眩しさに思わず目を細めると、低く凛とした声が上から落ちてきた。




「こんな所で護衛も付けずに何やってんだ、お前」




 扉を開けてファウラを見下ろし、細身の旅服を身に纏っているだけだというのに、どこか気品を感じられる男が立っていた。黒真珠のような艶やかな黒髪が僅かに風に揺れる。

 目を奪われたのは、彼が持つ不思議な光を放つ紅い瞳。吸い込まれそうなのに、研ぎ澄まされた刃のように鋭い視線に声も出ない。

 探るように見つめられれば尚のこと、呼吸するのも忘れてしまう。



「どこの世間知らずのお嬢様か知らねえが、命を溝に捨てたくなかったら、とっとと帰れ」


「……」


「ったく、狙うならもう少し金目のある奴を狙えばいいものを……まあ、尻尾は掴めたから良しとしてやるか」




 視線を逸らされ、ようやく自分の意志で動くことが可能になったファウラは辺りを確認しようと小さく身体を動かした。恐怖に動けなくなった反動で、思うように足に力が入らないことに気付く。



(どうなっているの?)



 確認しようにも足が言う事を聞いてくれない。花嫁衣装を汚さないようにすれば尚更、身体に力を入れずらくなる。