風を切って飛んでくるその音に、衝撃に備えて身を丸めた。

 予想していた通りがくんっと、馬車が大きく揺れてファウラの身体は前に放り出された。



「っ……!」



 床に崩れ落ちるようにして座り込んだファウラは、殺気だった気配に思わず身を震わせた。

 直後悲鳴が聞こえて来て、窓の外で案内を任された付添人が血相を変えて逃げ出していく姿を見逃さなかった。馬車を引く馬が暴れ、直後聞こえてきた声に耳を疑った。




「野郎ども!やれ!」



 何者かに襲われた、そう分かるまでに大して時間は掛からなかった。



(山賊、よね。なんでここに居るかは知らないけどっ)



 万が一に備えてなどいないファウラの手元には、武器は一切ない。護身術は一応身につけてはあるものの、大人数でしかも武器を持った山賊相手に素手のみで応戦するなど出来るわけもない。

 とにかく今は身を潜めておくことしか出来ず、どうしたものかと思考を張り巡らせた。

 花嫁姿のまま飛び出して逃げるのは、あまりにも分が悪い。捕まるのに数秒もあれば十分だろう。

 だからと言ってこのまま何もしないで隠れ続けることも出来ない。

 あれやこれやと考えるうちに、焦りが滲んで周囲に張り巡らしていた神経が緩んだのに気付かなかった。窓の外から、人影が大きく揺れるがファウラの視界には入らない。