「この男のせいで神が怒り狂ったのです。結果、命が縮んだ哀れなこの男を助ける術はもうありません。これから我が神が生み出す理想郷に更なる力をもたらす為の儀式を、殿下にもお見せしましょう――禁断と呼ばれた、神秘的な光景を」



 乱暴に髪を離し、体勢を崩すルイゼルトには目も止めずに、ハヒェルは魔石に向かって祈りを捧げた。反応した魔石が、熱を帯びるように禍々しい光を増した。

 どこかで見覚えのあるその輝きに、痛む体に何とか耐えながら記憶を探る。

 ファウラの魔石を見つめる視線に気が付いたのか、ハヒェルは嬉しそうな笑いを弾かせた。



「どうやら、この魔石の正体にようやくお気づきですか?正解をお教えしましょう。この魔石は人の心から影を生みだし、人を悪に染める力があるのです。まあ実験品なので、まだ個人差にバラつきがあるようですがね。それでも馬鹿な貴族にお守り代わりとして配れば、少なくとも身につけるものはいましたよ。お陰でこちらの力も蓄えることができました」


「……!」




 ハヒェルがおもむろに懐から取り出したのは見覚えのあるアメジストのブローチだった。

 印象的な怪しげな輝きを見間違えることはない。



(私がここに来た時ばかりに倒れたのを介抱してくれた侍女も、セーナ様も同じのを着けていた……あれが、悪しき穢れの力を!)



 人の弱った心に漬け込むだけでなく、苦しみを与えていた事実に怒りで震える。



「殿下の式典にもこのブローチを着けているものは多数見られましたよ。怒りや憎しみ、そう言った感情は影を生みやすい。加えて人が集まる場では、感情が渦を巻き増大させる……こうして蓄えた力を全て今、神に捧げるのです!!」



 ハヒェルは腰から短剣を引き抜き自ら手の平を切ると、流れた血を魔石に流し込むように垂らす。