自ら引き延ばした旅行の日数のせいで、膨大な仕事に追われてしまったルイゼルトは宰相達の眉間に寄るしわのことを考える暇もなく仕事に明け暮れていた。

 報告書に上がっていた領地の一件も、実際の現状が分からないと休憩することなく馬車に乗り続けて現地に赴いたり、関税の揉め事には何とか今まで通りを納得させるために丸一日をかけて会談を続けたりと、体力とメンタル勝負の毎日を送っていた。

 おまけに忙し過ぎるせいでファウラに会う事すら叶わない。

 体を酷使し過ぎるなと口酸っぱくユトには言われていたものの、ファウラに少しでも早く会うには自分を犠牲にするしかない。

 そうしてようやく会えた至福の一時に、溢れんばかりの自分の思いを止まらない口づけに込めた。

 とろけていくファウラを寝台に運びそうになる欲望を抑えられたことは、ここ最近で一番よくやったと自分を褒めた。

 あんなに愛らしい存在を前に、理性を保つ方が難しいとルイゼルトは彼女の笑顔を思い出しては、叫びたい程の愛を胸いっぱいに広げた。



 ――彼女を想えば想う程、身体を蝕む茨の痣は濃くなるばかりと知っていても。



「くそ……折角ファウラに会えたというのにっ……」



 夜が支配するこの時間は、暴れ出す痛みに顔を歪ませて耐え凌ぐしか術はない。

 滲む汗は氷のように冷たく、体温を奪っていく。

 か細く乱れた呼吸は命を繋ぎ止めようと必死に胸を動かした。