二人の間には、しばらくの間沈黙が流れた。


 けれど、それとは裏腹にルイゼルトは伸ばした手でファウラの手を取ると、優しい手つきで彼女の手を撫でた。




「陛下……」


「……」




 温もりに閉ざしていた口を開き声を掛けて、ルイゼルトの顔を覗き込む。返事は返ってこなかったが、紅い瞳をファウラに向けた。

 小さく微笑まれ、とりあえず目は合わせてくれた事に安心する。

 しっかり向き直って謝ろうと寝台から抜け出そうとするファウラだったが――失敗した。



「陛下……?」


「まだ寝ていろ」



 有無を言わさぬ声色で、押し倒されて俺から逃げるなと。そう低く、耳元で囁いてくる。

 逃げるつもりもないファウラは、寝台へと再び横になりこれ以上誤解されぬようにとそのままの体勢で謝罪の言葉を伝える。




「本当にごめんなさい。ドレスも汚しちゃったし、髪飾りも失くしかけたし……」


「はあ……俺がそんな事で怒る訳ないだろ」



 怒っていない。そういうルイゼルトだが、明らかに彼の瞳には怒りが宿っているのが見える。絶対に怒っているというのは、淡々とした口調から察した。