「いい気味。そのまま泥に塗れてしまいなさい。さて、皆さま。これにてお茶会はお開きに致しましょう」



 解散していく令嬢達など気にも留めず、ファウラはひたすら必死に髪飾りを探した。

 ルイゼルトと同じ瞳の色を探して、何度も何度も手を伸ばす。ドレスは水を吸ってどんどんと重たくなり、上手いこと身動きが取れなくなっても、ファウラは探し続けた。自分の運命を動かしてくれる、彼を感じられることができる物を失いたくなかった。




(初めて貰ったものなのに!大切なものなのに!!)




 泣くのは諦めた証拠だと、滲む涙を堪えながら手当り次第探していく。ぬかるむ足場に足を取られながらも、水の中を掻きわけていると、知らないうちに背後から近づいていた。




「ファウラ!!何やってんだよ!!」


「っ……!!」




 聞こえた声に振り返れば、あの紅色がしっかりとファウラを映し出していた。知っている輝きに安心感を与えられるが、探すのをやめなかった。



「陛下から貰った大切な髪飾りがっ……!」


「そんなのまた買ってやるから、こっちに来い!」


「陛下から初めて貰ったものなのに!」


「ったく……!」



 着ていた上着を脱ぎ捨てて、池に入ってきたルイゼルトは今にも泣きそうなファウラを引き寄せた。




 そして何か呟いたかと思えば、安心しろとファウラに笑って見せる。



「もう失くすなよ」



 優しい声に抱き締めながら、手の中に置かれた髪飾りを見た途端、張りつめていた緊張感が緩んで涙が溢れた。ルイゼルトの上着を羽織り濡れた体を寄せ合いながら、ファウラはびしょ濡れのまま城へと戻った。

 馬車の中、止まらない涙をルイゼルトが何度もぬぐってくれる温もりに甘えて静かに泣いた。