腕に爪が食い込んできて、滲む痛みに耐えながらセーナを見れば、彼女の目は怒りに染まり上がっていた。周囲に助けを頼もうとしても、楽しそうに傍観しているだけで手を貸そうともして来ない。
一瞬セーナに黒い影のようなものが見えたような気がしたが、それどころではなかった。今にも噛みついてきそうな彼女に押し負けそうになるのを、何とか耐える。
吠えるように叫ぶセーラは、もう理性を失っていた。
「よくもまあ、婚約者というものが居ながらエルディン様に近づいたわね!!」
「ど、どういう事?」
「そうやって知らないフリしてれば、逃げられるとでも思って?」
「だから、私は本当に何もっ!」
力で押し負けそうになるが倒れるわけにはいかないと、踏ん張るファウラの力に驚いたセーナを見逃さなかった。一瞬掴まれていた手が緩み、上手いこと抜け出し距離を取るが囲まれている以上、さほど距離は取れない。
それでも両腕を掴まれ、身動きが取れないよりはマシだった。
「婚約を結ぶ場で、他の……それもよりにもよってエルディン様の口づけを奪おうなんて、エルディン様の婚約者”予定”の私が許すとでも思って?!」
(えっ!?)
予想外のことに、淑女を叫びそうになる。自分が人の想い人を取ろうとしている悪役に今自分がなっているなどと、すぐ理解できるわけがない。



