雲一つない澄んだ空気が流れる青空の下で、今日も小さな奇跡は起こる。

 その奇跡は綺麗な少女の歌声と共にやってくるのが、長閑な街で有名なテリーハルテンでは当たり前なのだ。

 街の屋敷の片隅で黒く枯れ果てた花を前に、少女は両指を絡ませて祈るように歌いながら枯れた花をそっと撫でると、花は今にも朽ちそうな身をゆっくりと持ち上げた。

 腰まで伸びた柔らかいミルクティーベージュの髪が風に揺れると、光を纏って静かに輝く。光を浴びた花は、黒き穢れを少女の歌に預けて小さく震えた。



「……もう大丈夫よ」


 トパーズのような煌めきを放つ蒼い瞳が、ほんの僅かに輝いたかと思えば、花は自分の力でしっかりと背を伸ばして太陽の光を浴びていた。

 花の伸び伸びとした様子に頷くと、少女はスカートに着いた土埃を払いながらゆっくりと立ち上がる。



「これでよしっ、と」


「ファウラ〜!ありがとう!」



 駆け寄ってきた女性へ元気になった花を見せる少女――ファウラ・レゼルトは、嬉しそうな表情を浮かべる彼女に小さく微笑んだ。



「これが私の仕事だから」


「ファウラの奇跡は絶対的な力があるんだからね?あーでも良かった!これでまたお母さんと喧嘩せずに済むよ〜」



 奇跡と呼ばれるファウラのまじないは、街の人達からも受け入れられ、数々の悲しみを喜びに変えてきた。

 感謝を向けられて動じなくなったのもここ数年の話で、元々は拒絶されていた力なのだ。