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時刻は午後10時。
私と葉月君はタクシーに乗って、依頼のあったK町の外れまでやって来ました。

「君達、本当にここで良いのかい?」

タクシーを運転していた男性は、怪訝な顔で私達を見ます。
無理もありません。ここは本当に町の外れで民家も少なくなく、こんな時間に中学生が二人で来るような場所ではありませんから。

けどそんな運転手さんに、葉月君が笑顔で答える。

「大丈夫ですよ。ちょっと人と待ち合わせしているだけですから」
「そうかい。何にせよ、もう遅いから気を付けるんだよ。この辺には、妙な噂があるからねえ」
「噂って?」
「それは……いや、何でもない。ちょっとしたデマだよ。とにかく用が住んだら、早く帰るんだよ」

私達を下ろして、タクシーは去って行きました。

気になったのは、運転手さんが言っていた、妙な噂。それってもしかして。

「葉月君、さっき運転手さんが言っていた噂って、今回依頼があったアレでしょうか?」
「かもね。目撃情報は結構あるみたいだから、噂になっててもおかしくないし。場所はここより少し先だけど、歩ける?」

もちろんです。
町から離れ山へと続く道を、二人して歩進んで行く。

夜と言うこともあって辺りは静まり返っていて、私達の足音が、コツコツと響きます。

そうしてしばらく歩いて、いよいよ周りに建物も失くなってきた頃。
夜の静寂を壊すように、道の先からエンジンの音が聞こえてきました。

こっちに向かって、車が走ってきている? いいえ、違います。

エンジン音が近づいてくるのと連動するように、辺りの空気冷たくなっていく。
この感じ、幽霊が現れた時に感じる、空気の変化です。

「葉月君、これって」
「ああ、俺も感じたよ。霊気の正体は、きっとあのバイクだね」

葉月君が見据える先には、こっちに向かってくる一台のバイクがありました。

けどそれが、普通のバイクじゃないことは明らかです。
だってバイクにはライダースーツの、おそらく男性がまたがっていましたが、異様なのはその頭。

そこには本来あるべきもの。首から上が無かったのです。

「間違いない、首無しライダーだ」

これが今回祓うべき相手、首無しライダー。
なんでもこの峠で事故死した人の霊で、夜な夜なバイクで走っているのだとか。

昔、クラスの男子達が首無し地蔵にイタズラした事がありましたけど、どうやら私はつくづく、『首無し』と縁があるみたいですね。

走っているだけで特に何か悪さをするわけではないみたいですけど、見た人が驚いて更なる事故が起きているのだとか。
だから私達に、除霊の依頼が来たのです。