趣味は何かって聞かれたら、俺は迷わず肝試しって答える。

いや、正確には肝試しをして、その様子を撮影した動画をネットに投稿する、か。
潰れた病院や、幽霊が出るという噂のトンネルなど、数々の心霊スポットに行って撮影した動画を投稿してるんだけど、これがなかなか好評なんだよ。

回を重ねるごとにチャンネル登録者数も増えていて、俺はちょっとした有名人さ。この前なんて同じ大学の女の子から、サインしてって頼まれちまった。

で、そんな俺が夜中にやって来たのは、山の中にある廃校。戦前からあった木造校舎だけど、もう十年以上前に廃校になっている。
噂ではここには幽霊が出て、取り壊そうとすると必ず事故が起こるから、工事が進まないのだとか。だから本当に幽霊が出るかどうか、確かめにやって来たってわけ。
心霊スポットに行く時、俺は決まって一人で行くことにしている。何人も連れ立っていくよりも一人で行った方が、怖い絵が撮れるんだよな。

校舎の中は真っ暗でほこり臭く、俺はカメラを構えて廊下を歩いて行く。
腐った木の床がギシギシ言ってて不気味ではあるけど、俺は慣れているからどうってこと無い。こんなんじゃ物足りないくらいだ。
本当に幽霊が出て来てくれないかなあ。そうしたら、きっと面白い絵が撮れるのにな。

だけど校舎の一階。廊下のすみにある教室に足を踏み入れた瞬間、俺は思わず息を飲んだ。

誰もいないはずの教室。
だけどそこにはセーラー服を着た女子が一人、静かにたたずんでいたんだ。

歳は高校生くらいだろうか。背は150センチくらいの、ツインテールの頭をした女の子。顔は一見すると地味だけど、窓から差し込む明かりに照らされて、幻想的な綺麗さがある。

けど、なんで夜遅くにこんな所に? 
すると女の子はこっちに気付いたみたいで、すっと目を向けてきた。

「あれ? お兄さん、こんな所に何をしているんですか?」

俺が思ったのと全く同じ事を聞いてくる。だけどふと何かに気づいたように、俺の顔をまじまじと見つめてきた。

「もしかして肝試しの動画を投稿している、杉谷(すぎたに)克也(かつや)さんじゃないですか?」
「え、俺のこと知ってるの?」
「はい、動画いつも見てます。もしかしてここにも、肝試しに来たんですか?」
「ま、まあそんなところ」

興味津々といった様子の彼女に、思わず気がよくなる。俺の事を知ってくれているなんて、嬉しいじゃないか。

「私、水原(みずはら)知世(ともよ)って言います。私も杉谷さんに憧れて肝試しに来たんです。よろしければご一緒してもいいでしょうか?」

え、この子俺のファンなのか⁉ 

嬉しい言葉に、思わず胸が高鳴る。
普段肝試しをする時は一人で回っているけど、たまには二人で行くのも悪くないかも。

それに歩いてみて分かったけど、この校舎は老朽化が進んでいて。女の子一人だと心配だ。

「それじゃあ、一緒に行くか」
「本当ですか。ありがとうございます」

かくして、俺達は二人で校舎の中を探検することになった。