どうやらそのまま眠ってしまったようで、気が付けば朝になっていた。
カーテンを閉め忘れていたせいで眩しさに目を覚ました。

はっ!? そうだ!片桐さん!!
隣で眠る片桐さんのおでこに触れると、熱は引いているみたいでホッとした。


「良かったぁ」
「……ん……朝……」
「はい、おはようございます。熱下がりましたね」


顔を覗き込むと、ゆっくり目を開いて、また直ぐに細めた。
ふにゃぁと微笑むその顔を見てドキッとして、私はそこで初めてちゃんと分かった。


”私、片桐さんが大好き”だって。


不安だった時に助けてくれたから、ただ隣人になっただけの私に優しくしてくれたから、布団を取ってしまっても怒らなくて、夜遅くにコンビニへ行けば待っていたかのように値下げシールを貼ってくれたり、それを買って帰って一緒にお弁当を食べながら、その日に起こったどうでもいいような内容を話す。

片桐さんにも何かあったかと聞けば『夕方、縁側でボーッと空見てたら、消えかけの飛行機雲が夕日に染って綺麗だった』、なんて言いながらパクッと唐揚げを食べる。

そんな何気ない……こともないか。
そんな毎日を積み重ねているうちに、私はどんどん片桐さんを好きになっていったんだ。
普通知らない男の人と暮らしてて、怖いって感情の一つや二つあるのが普通な気がするのに、片桐さんはそれを感じさせないようにしてくれていた。

必要以上に近付こうとしなかった。
最初の頃ずっと徹夜していたのだって、私が一人で布団を使う事に気を遣わせない為だったし、一緒に寝るようになっても片桐さんは気がつけば一人で布団からはみ出して寝ていたりした。
この家の住人は彼なのに、いつもいつも優しく気遣ってくれた。


「薬が効いたかな、もうすっかり…」
「片桐さん、好きです」
「……え?」

口から勝手に溢れてしまった言葉。
片桐さんの顔が真っ赤になって漸くなにを口走ってしまった気付いて慌てて起きた。


「あ、えっと、ね、熱計りましょ!一応!」


なんとか誤魔化そうとする。
私みたいな平凡で、ご迷惑を掛けてばかりの女に好かれても困ってしまう。ましてや病み上がりになんてことを言ってるんだ私。


「あ、下がってますね! じゃあえっと、簡単に雑炊作るんで、それ食べて薬飲んで休んでくださいね。 私作ったら大学行くんで!」


良かった。平熱に戻ってた。
何も言われないのを良いことに勝手に動き回って、その間もずっとドキドキしてた。
言った通り雑炊を作り、それとお水と薬を添えてテーブルに置き「それじゃあ!」と、逃げるように家を出た。

……顔、見れなかった。
どうしよう、今日どんな顔をして帰ればいいんだろう。
はあ、と盛大な溜息は盛れるけれど、何処か気持ちは晴れやかだった。