日曜の朝、夕方から出勤だという彼女が部屋にやって来た。いい加減行き先を決めて宿の予約をしなくてはならない。
 彼女は付箋だらけの旅行雑誌と、やりたいことを書いたメモ帳を開いて、それとにらめっこしながら絞り込んでいく。

 その結果、鳴子温泉郷に決まった。
 温泉「郷」という名の通り、地域には五ヶ所の温泉地があり湯めぐりができる。ここで日頃の疲れを少しでも癒せれば何よりだ。

 まあ、疲れを癒す目的以前に「小林くんと浴衣でカラコロ街を歩きたい」と、彼女が目をきらきらさせていたから、普段と違う恰好が見たいという気持ちのほうが大きいかもしれない。
 そういえば冬に初めて仕事帰りのデートをしたとき、彼女は僕のスーツ姿に、ときめきを隠しきれていない状態だった。喜んでくれるのは嬉しいし、そんな可愛い姿に気付かないふりをしつつ盗み見ながら、気恥ずかしくもあった。

 温泉以外にも工芸品の店も多く、体験もできる。周囲には文化碑もあり、歴史を感じることができる。
 道中には、僕らが子どもの頃には仙台駅の構内にあった伊達政宗公騎馬像が展示してある場所や、人気の道の駅もある。

 たった一泊二日で、やりたいことリストがどこまで達成できるかは不明だけれど、できなくてもいいのだ。できなければ、また何度でも行けばいいのだから。