「……困ったなあ」
「わたし、困らせてた?」
「うん、だいぶね」

 告白に対する返答が「いいえ」なのではないかと不安に駆られるわたしに、苦笑したまま彼が「先に言われた」と告げた。

「え?」
「十四日に会ったときに、俺が言いたかったのに。なんやかんやで一ヶ月半も会えないなら、あと十日我慢すればバレンタインデーだから、その日に俺からチョコを渡して告白しようと思っていたのに。なかなか上手くいかないもんだね」

 そう言って小林くんはわたしを再び胸に収め、「俺も笹井さんが好きだよ、あの頃よりずっと。今の笹井さんが好きだ」という返事をくれた。

 わたしはそれを、驚くほど速い彼の鼓動と共に聞いた。

 本当に、なかなか上手くいかない。けれどこれが、馬と言って鹿と言われた、わたしたちらしいとも思った。

 気持ちがストンと綺麗に着地して、わたしは、ただ4Bの鉛筆を握り泣くしかなかったあの頃の自分を慰めるよう、不器用であまりいい恋愛ができないでいた彼を慰めるよう、身体をぴったりと密着させ、そのまましばらく抱き合っていた。



(了)