そうして、いつ溢れてもおかしくはない、表面張力のような日々を過ごし、二月を迎えた。

 彼の出張も研修会も交流会も無事に終わったようだけれど、わたしたちはまだ会えていない。二月に入ってから、わたしのシフトが中番と遅番のごった煮になってしまったからだ。
 年末年始ほどではなかったし、頑張れば充分耐えられたけれど、彼に「頑張れば、ってことは無理してるってことだし、俺と会うために倒れたら大変だから」と気遣われたら、大人しくしているしかないのだ。

 もしかしたら、この前の元気を装ったメッセージのせいで、彼は勘違いしてしまったのかもしれない。それか、高校時代に彼を避け続けたせいかも。
 彼はわたしが我慢強い人間だと思い込んでいるだろう。その勘違いのせいで会う機会が減り、フェードアウトも有り得る。

 でももう限界だ。限界なのだ。彼が好きだ。もう長い間、充分我慢した。もう我慢はたくさんだ。どうせ我慢をするなら、わたしは疲労と睡魔を我慢する。


「笹井さん、次は八日と十四日が休みか。八日の前後が遅番と朝番で、十四日の前後が朝番と遅番ね。じゃあ会うのは十四日にしようか。出張土産も渡したいし、久しぶりにゆっくりしよう」

 電話口で平然と、あと十日以上もお預け宣言をする残酷な彼に「嫌です」と返した。

「え?」
「もう無理。もう一ヶ月半も会っていない。会いたい。もう無理。五分でいいから、ただ会いたい」
「え? ええ?」
「小林くん、今どこ?」
「え、と、まだ会社……」
「まだ仕事中?」
「いや、もう帰るとこ……」
「じゃあ二十分で行く。車でマンションまで送るから、待ってて」
「え、ちょっ、笹井さん、落ち着いて」
「落ち着いてる。わたしもまだ店の駐車場だし、この時間は混むから、多く見積もっても三十分くらいかかるかも」
「いや、さすがに来てもらうのは……」
「どうして?」
「笹井さんも仕事帰りなのに、わざわざこっちまで運転して来ることないよ。俺もすぐ電車に乗って帰るから。いやむしろそっち方面の電車に乗るから、駅かどこかで待ち合わせしよう」
「ううん、地下鉄から在来線への乗り換えがあるから、多分車より時間がかかる。わたしが行くのが一番早い」
「でも……」
「小林くん」
「うん?」
「わがまま言ってごめん。だけど、あなたが恋しい」

 ここまで言うと、ようやく彼が了承して、「でも安全運転でね」と付け加えた。