「もう有給はとらないでほしい。それからデートの予定を細かく決めるのも。ちょっと会うくらいなら当日に、今晩暇? くらいの連絡で充分。小林くんが土日祝が休みってのは分かっているし、わたしのシフトも伝えておくから、きっちり予定を組んで、融通がきかないデートをするのは、もう終わりにしよう」
「……え?」

 彼が素っ頓狂な声を出して、こちらを見た。気まずさに目を反らしたくなったけれど、それでは嫌なことから逃げた高校時代と同じ気がして、真っ直ぐに彼の目を見続けた。

「わたしたち、もう高校生じゃないよ。大人になったんだよ。仕事がある以上、時間に制限はあるけれど、門限はない。だからもっと、気軽に会ったり話したりしよう」

 わたしがそう続けると、彼は苦虫を噛み潰したような顔になり、それでも思い当たる節があるのか、やけに大仰に頷いた。

「ごめん、なんというか……ちゃんとしなきゃって思って。もう二十六で、大人になって、情けなく不甲斐なかったあの頃とは違うって、示したくて……」
「ちゃんとするのは良いことだけど、かしこまった予定確認のメールとか、時間通りの解散だとか、仕事みたい」

 言うと小林くんは苦笑して、シートに背中を沈めながら、ぽつりぽつりと話し始めた。

「俺はわりと不器用で、特に異性のことになると、上手くいかなくなる。高校生の頃は部活も勉強も手につかなくなったし、大学生の頃に付き合った子には気を遣い過ぎて、堅物で経験も少なくてつまらないって振られた」
「そう……」
「就職してから付き合った子には、仕事中と印象が違い過ぎるって言われて……」
「うん……」
「でも、笹井さんとはだめになりたくないから。高校生の頃にずっと話したかった笹井さんと、話す機会を得たから。ちゃんとしなきゃって……」

 切実な声色に、彼が今まであまり良い恋愛をしてこなかったことがよく分かった。そして、わたしとは失敗したくないと思ってくれていることも。