「一年生の時、小林くんのことが好きだった。好きだけど、会話なんてほとんどできないただのクラスメイトで。でも長い時間をかけて五回だけ、本の話をすることができたから、これからだって。この調子でゆっくり親しくなっていこうって思った矢先に、ふたりが付き合っていることを知ったの」
突然のカミングアウトだった。まさか八年温めた笑い話に続きが、いやこんな始まりがあったなんて。
「ふたりが仲良く寄り添っているのを見ただけで、もうだめだった。それこそ、身体がエラーを起こしてしまうほどにね。それでもう小林くんを視界に入れないように、話す機会が訪れないように、努力した」
そして彼女は「おかしいよね」と言って笑う。
「一年生のときは、どうにか小林くんの視界に入ろうとタイミングを計ったり、こっそり盗み見たりしてたのに。数ヶ月後には真逆のことをしてた」
本当におかしな話だ。彼女が僕を盗み見てタイミングを計っていた間、僕は彼女を見ていなかった。その後彼女が僕を徹底的に避けていた間、僕は彼女を盗み見てタイミングを計っていたなんて。
よく分かった。彼女は誰とでも仲が良く、誰とでも楽しそうに話していた。部活も委員会も友だち付き合いも忙しそうで、不甲斐ない僕は話しかけることができなかったというのに。そもそも僕を避けるために始めたことなのだから、タイミングが見つからないわけだ。
本当に、青くて若くて、馬鹿だった。
「そっか、笹井さん、俺のこと好きだったのか」
「そうだね、今思い出しても笑えるくらい、幼稚な恋だったけど」
「ちなみにきっかけは?」
「入学してすぐ、転んで膝を擦りむいたら、小林くんが絆創膏をくれた」
「それだけ?」
「きっかけはね」
「俺そんなことした?」
「ん、体育館掃除のときかな。同じ班だったでしょ」
「優しかったんだなあ、俺。そんな恰好いいことして」
「そうだね」
「ちょっと。つっこんでくれないと自画自賛する男で終わるんだけど」
「そうだね」



