あの子なら、どうだろう。僕の机に「馬」の字を書くようなタイプだろうか。
でも条件はどれも当てはまる。クラスメイトとして一年、僕と岡崎さんを見ていた。一年五組の教室にいても不自然ではなく、部活は校舎内。部活のあと一人で教室に戻るのも簡単だろう。何より彼女は、4Bの濃い鉛筆を常用している。一歩引いたところで静かに見ているタイプなら、岡崎さんの本心も、僕の間抜けさも、分かっていただろう。
どうにか本人と話すタイミングはないだろうか、と連日タイミングを計ったけれど、そんな日はなかなか訪れない。彼女と気軽に話せる仲ならいいが、僕はただ一度同じクラスになっただけ、何度か本の話をしたことがあるだけの同級生だ。積極的なタイプでもない。
でもこっそり彼女の姿を目で追っていたおかげで、少しだけ彼女の様子が分かった。
彼女は誰とでも仲が良く、誰にでも平等だ。男子も女子も、理系も文系も、運動部も文化部も、先輩後輩もない。見かけるたびに違う人たちと楽しそうに話している。
それを見るに、親しくもない僕が突然話しかけても、彼女は普通に話してくれるだろう。でも話題が話題だから、できればふたりきりで話したい。でも彼女が校内で一人になっている場面は全く見かけない。
親しくないから、廊下ですれ違っても挨拶もしないし、目も合わない。
読書好きだったことを思い出し、放課後に図書室に通ってみたりもしたけれど、図書委員らしく、図書準備室で司書の女性と話していたり、作業をしていたり、忙しそうだった。そして作業が終わると司書の女性や他の図書委員の生徒と連れだって、準備室側から出て行ってしまう。
二年になってから始まった選択授業も、理系と文系じゃあ選ぶ科目が違うのか、ひとつも被らなかった。
そうやって、自分の不甲斐なさに落胆しながら、月日ばかりが過ぎて行った。



