八年ぶりにこの坂を上るのにはちゃんと理由がある。母校の野球部が夏の高校野球全国大会へ初出場を決め、今日は初陣。卒業生や現地に応援に行けなかった在校生が集まり、パブリックビューイングが行われるのだ。

 世の中はお盆休みだけど、雑貨屋で働くわたしにそんなものはないし、後輩たちには悪いけれど行くつもりはなかった。十歳近く年下の彼らの活躍は夜のニュース番組で見て、高校時代の友人たちとメッセージのやり取りをするくらいで済まそうと。

 だけど、こんなことでもないとなかなか集まれないし、お祭りみたいなものだし、と友人たちが代わる代わる連絡を寄越して、結局行くことに決めた。雨で試合が順延になったというのも大きい。ちょうど休みと重なったのだ。

 ただし昨日は六連勤の最終日で、しかもどうしても検品を終わらせたくて遅くまで残業をしていたから、疲れ果ててアラームにも気付かず寝こけていたのだけれど。試合開始予定時刻は十三時だから、すでに一時間の遅刻だ。


 ゆっくりと景色が流れ視界に入ってきたのは、学校の敷地を囲む急斜面の芝生。その上に見えるフェンスには「祝・甲子園出場」の横断幕。懐かしさと真新しさが同時にやってきて、不思議な気分になった。

 ようやく校門まで辿り着いて、学校名が刻まれた銘板をぼんやりと見つめる。懐かしい。芝生も校門も、見上げた校舎も体育館も、あの頃と何も変わっていない。変わっていないとしても、確かに八年という月日は流れ、もう戻れはしない。そう思ったら急に寂しくなった。

 なんだかんだ言って、学生時代が一番楽しかったな、と。少し感傷的になっていたら、背後からざっざっと足音が聞こえた。無意識に顔を向けると、そこにいたのは思いもしなかった人物だった。