そして今日、その恋を終わらせた。俯いて、手にしていたままの4Bの鉛筆を見つめていたら、その横を、透明の液体が通り過ぎていくのに気付いた。液体はぱたぱたと足下に落ちていたが、次第に視界が霞んで見えなくなった。

 鼻の奥がツンとして、喉から「う、う」と声が漏れだした頃になって、ようやく分かった。平気な顔で平穏な日常を過ごしながら、わたしはずっと、泣きたかったのだ。始まらないまま終わってしまった恋を嘆いて、泣いてしまいたかったのだ。

 その証拠に、頬が濡れていくにつれ、肩がすうっと軽くなっていき、外がすっかり暗くなる頃には、背筋をしゃんと伸ばして立つことができた。


 翌日、彼が一生懸命「馬」の字を消しているのをからかう、男子たちの賑やかな声が聞こえた。わたしは前を向いたまま心の中で「ごめんね」と呟きながら、静かに本を開く。


 そのあと、バレンタインデーに彼とあの子がキスより先へ進んだのかは、知らない。休み時間も放課後も、できるだけ教室にいないよう、雑談が耳に入らないよう、努力したからだ。
 幸いにも、休み時間や放課後に一緒に過ごせる友人たちはどのクラスにもいた。あんな幼稚な恋しかできなかったわたしは、その分友だちに恵まれたのだ。

 そうやって、高校一年生が終わっていった。

 これが、この教室で起きた、全てのことだ。