翌週、定期考査前の部活動停止期間が始まり、放課後になるとそれぞれ勉強がしやすい場所に散っていく。早々に帰宅する人もいたし、教室に残って机をくっつけるグループも。学校の図書室や、市民図書館に向かう人もいた。
わたしはというと、同じクラスの鈴村桐と一緒に、交流センターで勉強することにした。
学校前の坂を下り切ったところにある交流センターには、いつでも誰でも予約なしで利用できる多目的室があり、ここを勉強場所に選ぶ人も多かった。
ただし図書室のような静けさはない。誰でも利用できる部屋だから、時にはバスを待つお年寄りや、絵本を音読する親子がいたりもする。うちの生徒が向かい合って座って一生懸命勉強を教え教わっていることも、ディベートが始まっていることもあった。
それでいて、教室ほどの騒がしさもない。わたしは前期の中間考査前から利用しているけれど、ここの程よい賑やかさが気に入っていた。
交流センターの一階。清潔感のある白い廊下を進んだ、西奥の部屋。教室より少しだけ狭い部屋には長机が三列、等間隔に並んでおり、すでにうちの生徒たちが教科書を開いていた。
窓際のソファー席には、冬の貴重な日差しを浴びながら編み物をするおばあさんが。同じく窓際の席にはノートパソコンを開くスーツ姿の男性もいた。相変わらずここは、程よく賑やかだ。
わたしとスズは入り口近くの壁際の席を選んで、コートを脱ぎながらパイプ椅子に着席し「お願い友喜、英語教えて」「わたしは数A教えてほしい」「無理、数Aは捨ててる」と何気ない会話をしながら教科書を取り出す。
そして何気なく顔を上げ、真ん中の列にいる人物を視界に入れ、硬直した。
それはうちの高校の男子生徒と女子生徒だった。ふたりは肩が触れ合うほどパイプ椅子を近付けて座って、一冊の教科書を間に置いて勉強していた。
男子生徒は穏やかな声で丁寧に、公式の当てはめ方と解き方を教え、女子生徒は悩ましい声を出しながら問題を解いている。
少しすると、ふたりは寄せた顔を見合わせ、笑い合う。どこからどう見ても、幸せそうな恋人同士。
どこからどう見ても、小林くんと、同じクラスの岡崎さんだった。



