「ノエ、お願いがあるの」

「何でしょうか、ジュリエットお嬢様」

ノエが足を止め、近付いてくる。ジュリエットはドレスの裾を持ち上げ、昨日の夜のようにお辞儀をする。

「着替えてからパーティーホールへ向かうまでの間、エスコートをお願いしたいの。お願い……」

ジュリエットの心臓が激しく音を立てる。ずっと我慢をしてばかりで、わがままなど言ったことはなかった。生まれて初めて言ったかもしれないわがままに、緊張してしまう。

ノエは少し考えた後、ニコリと微笑む。そしてジュリエットの手を取り、「喜んでお引き受けします」と言った。

「……ありがとう、ノエ」

ジュリエットはホッとし、胸の痛みを誤魔化すように笑う。大きな未来を自分で決めることは許されない。ならば、最初で最後のわがままを言いたくなったのだ。

(心から好きな殿方にエスコートされたいから……)

「お嬢様に素敵なお相手が見つかることを、心からお祈りしております」