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side紅
実戦大会が終わって数ヶ月。
季節はもうすっかり春から夏へと変わってしまった。
能力者の夏と言えば?
そう!
夏祭りの任務である!
能力者の中でも姫巫女の守護者として選ばれている私たち四神家の次期当主たちは例年稀に見るほど忙しい夏を過ごしていた。
姫巫女の護衛ではない空き時間には全国の夏祭りの任務に駆り出され、並行して普通の任務も入れられる。
守護者として選ばれるだけの強さを誇る為、その強さゆえに任務を詰め込まれてしまうのだ。
だから休みらしい休みというものがここ数日私にはなかった。
今もやっと自分の部屋に帰って休めているが、あと1時間後には琥珀と地方の祭りの警備の任務が入っている。
「ただいまぁ」
ソファに力なく倒れて少しでも体力を回復させようとしていると慣れた様子で朱が私の部屋の扉を開けた。
自分の部屋でもないのに「ただいま」と言って。
「…」
体をムクリと上げてソファ越しに朱を見つめる。
「兄さぁーん」
するとそんな私を見つけた朱は嬉しそうに私の頭を抱きしめた。
「疲れたよ…。夏ってこんなにも忙しいんだね」
「…朱は一年生の中でもずば抜けて実力があるからね。多分普通の人より任務詰められているよ」
「やっぱり?何か同級生と任務の入り方が違うなぁとは思ってたんだよねぇ」
連日の任務三昧に疲れ切っている様子の朱は一度私の頭を離して、ソファの前まで回る。
そして私の横に座った。
「兄さん、ちょっとだけ休憩させて?」
男の子なのに愛らしいと思ってしまううるうるな瞳で朱が私を見つめる。
弱った子犬のようなその姿に私の心臓は貫かれた。