side龍



黄や赤に色づく山々を後ろに大切な少女が笑っている。
この美しい景色を目の前にいる少女と一緒に見られたのなら、どんなに美しいのだろうとは思っていたが、美しいと思う気持ちよりも、ここへ少女と共に来られたことが何よりも嬉しかった。

この少女、紅は一度自分を裏切り、殺した人間を守りたいと笑う。その為ならこの俺に交渉だってする。
理解できないことだが、紅の願いなら受け入れようと思ってしまう俺は大分紅に絆されてしまったものだ。

まさかこの俺が人間に心を開き、共にいられることを幸せだと思える日が来るとは。

今の状況にどこかおかしく思いながらも、隣で笑う紅を見て、俺はあのなかなかこうやって笑うことのできなかった1度目の紅のことを思い浮かべた。



*****



1度目の、祠の封印が完全に解け始める1年前。
春の日差しが心地よく、満開の桜が散っていった頃、祠から身動き一つ取れない俺の目の前に紅という存在が現れた。

俺が封印されている場所は能力者の学校の敷地内にある森のような場所だ。
そこに誰かが現れることはない。
だから最初は何故、突然紅がここへ現れたのかよくわからなかった。
だが、それは本当に一瞬だけで俺はすぐに何故、ここに紅が現れるのか理解した。

毎日毎日、雨の日も風の日も誰かからまるで姿を隠すように現れる紅はいつもいつも飽きもせず、そこで能力の鍛錬をし続けていた。
そして紅は元から人間にしては強い存在であったが、その力を日に日に増していった。

紅は誰にもバレずに1人で強くなるために、ここで鍛錬を続けていたのだ。

紅が俺の祠の前で笑うことはなかった。
いつもいつもしかめっ面で何かに追われるように能力を磨いていた。

一体何をそんなに焦る必要があるのか。
お前より強い存在などそういないだろう。

祠から見る景色はいつも変わらない。
だが、その一年だけは違った。
毎日子どもがやって来て、鍛錬をする。
そんな姿を俺も飽きもせず、何故かずっと見守っていた。

紅が泣くようになったのはその一年後、また春がやって来た頃だ。
俺の封印が完全に解け始めた春に紅はよく見せていたしかめっ面から辛そうな泣き顔を見せるようになった。

何故、あの人間は泣くのか。
何故、あんなにも不安そうなのにそれでも鍛錬をやめないのか。

理解できない存在に俺はいつもどこか気になっていたが、見て見ぬふりをしていた。