side朱



姉さんが僕に隠し事をする。
それだけで僕の心は荒れてしまう。
姉さんの全てを知りたいのに。


姉さんが父の書斎から浮かない顔で出てきた後、僕はそんな姉さんの背中を見送って父の書斎へ入った。



「…何だ、今度は朱か」



僕の訪れに顔色一つ変えることなく、淡々と父はしている。でもその表情には普段は見せない疲れの色があった。
きっと先ほどまで姉さんと言い合ってた内容が原因だろう。
姉さんにああ言っていた僕だが、僕はこの部屋で姉さんと父が何を話していたのか把握していた。

その為にこの部屋の前にずっといたのだ。
姉さんの全てを知っていたいから。



「…次期当主の件ですが、僕も姉さんと同じ意見です。僕が姉さんの代わりに次期当主になります」

「…駄目だ」



父と同じく淡々と喋る僕に父がため息をつき、僕の提案を否定する。
父はどうしても僕を次期当主にしたくはないらしい。
その理由を僕は知っている。



「姉さんの願いでもあるのにですか?姉さんほどではありませんが、僕にも次期当主を務める力はあります」

「何度も言っているだろう。朱に力がないのではない。紅に力がありすぎるんだ。あの子が葉月の次期当主から外れたらどうなるか前も十分説明しただろう」

「…」



僕を疲れの色を帯びた瞳で見つめる父の言葉にもう父から何十回も聞いた言葉を思い出す。
実は僕はもう何十回も父に自分を次期当主にして欲しいと打診してした。
そしてその度に断られ、何故断るのか理由を聞かされていた。

その理由は…



「次期当主ではなくなった姉さんは無防備になる。何かの拍子で姉さんの血筋がバレる可能性だって十分にありうる。そうなれば姉さんはその強さゆえに能力者界の下剋上を狙う勢力から必ず麟太郎様の対抗馬として祭り上げられる。そうならない為にも姉さんは最初から麟太郎様の傘下である四神の次期当主でなければならない」

「そうだ」



もう何十回も聞かされた父の説明を僕がする。
そんな僕の説明を聞いていた父はただただ頷いていた。

姉さんを守りたい父の気持ちもわかる。
だが、こんな守り方じゃ姉さんを本当には守れない。

下剋上に利用されないだけで次期当主である以上姉さんにはあらゆる試練や危険が迫るのだ。
そんなもの僕はもう耐えられない。