「津山さん」



山川さんが私の肩をさすりながら、
「誰かを想う気持ちを、簡単に手放さないでね」
と言った。






数日が経った。

『美鳥』になる気が起こらない。

それに、徹平くんからのメッセージにも返信出来ずにいる。






下校の時。

スマートフォンに徹平くんからのメッセージが届いた。



『いつものコンビニで待っています。話したいから来てほしい』



それを読んで。

『美鳥』にならなくちゃ、と一瞬だけ考えて、やめた。

すぐに思い直した。



これ以上、『美鳥』になって嘘を重ねたくない。

架空の女の子になって、恋をすることはつらい。

徹平くんに対しても、失礼だよ。



どうして今まで『美鳥』でいたんだろう。

考えたら、すぐにわかるのに。

架空の女の子になるなんて。



誰にとっても幸せなことは、決してない。






地元の駅に着いた。

私は、私のまま。

『美鳥』にはならずに。