恋がはじまる日


「ホームルーム始めるぞー」


 出席簿を持った体格のいい男の先生が教室に入ってくる。


 あ、望月先生だ!

 去年も担任だった先生であり、趣味は筋トレのがっしりとした国語教諭である。

 先生も新クラスに軽く自己紹介をする。


 数学の怖い高田先生じゃなくてよかったぁ。


 ほっと安堵していると、その後ろを一人の男子生徒が一緒に入ってきた。教室が少しざわめく。女子がひそひそと色めき立つ。「かっこよくない?」「タイプかも」などと聞こえた。

 私は教室に入ってきた男子生徒を見つめ、ただただぽかんと口を開けていた。
 
 その男子生徒は整った顔立ちではあるが、どこかだるそうというか良く言えばクール、悪く言えば不愛想そうな、そう、どこかで見たことがあるような青年で。どこか、どこかで、いや、どこかでもなく今朝の!!


「あーーー!!」


 私は思わず大声を上げ、立ち上がっていた。

 先生と一緒に入ってきた男子生徒、それはつい先程まで話題の中心だった彼。今朝曲がり角でぶつかって、不遜な態度でさっさと去って行ってしまった彼。

 そう、まさにその人であった。

 うわああ転入生だったんだ!そんなベタな…!!少女漫画じゃん!!


「なんだ、佐藤。知り合いか?」


「え!?」


 気が付くとクラス中が私と教卓の前の彼とを交互に見比べている。

 私は急に恥ずかしくなり、慌てて着席した。


「い、いえ知り合いじゃないです…」


 そう小さな声で呟く。

「そうか?」


 先生は不思議そうに私を見た後、仕切り直すようにコホンと一つ咳払いをした。