恋がはじまる日

「そんなことより、今日は三浦とまわるって、約束してなかったか?」
「あ、うん、そうなんだけど…」


 私は先程の出来事の一部始終を話した。藤宮くんは椿と仲が良い(?)みたいだから、もしかしたら恋バナとかしているかもしれない。

 私の話をじっと聞いていた藤宮くんは、大きくため息をついた。


「佐藤って、相当鈍いな」

「え?それってどういう…」

「お前はそれでいいのか?三浦と一緒にいたかったんじゃないの?」

「え?えっと、」


 椿と一緒にいるのはもちろん楽しい。けれど私達ももう高校生なのだから、幼なじみだからと言って、恋とか、あまり干渉するのはよくないかな、と思ったのだけれど。椿の恋はもちろん応援したいし。

 私がなんと返答しようか悩んでいると、何故か藤宮くんは呆れたようにまた深くため息をついた。


「なんでお前らうまくいかないんだろうな。ま、三浦が悪いんだろうけど」

 どういうこと?


 藤宮くんの言っている意味が全く分からず、聞き返そうと思っていると続けて藤宮くんはこう言った。


「じゃあ、俺と文化祭まわるか?」

「え?」

「転入してきて、あんまり校舎見学してないから、言ったことない教室多いし。まぁ、佐藤が暇ならだけど」

「え、行く!私、案内するよ!」


 気付けば私は藤宮くんの誘いに即答していた。


 あれ?なんでこんなにも嬉しいんだろう。


「あ、えっと天文部がやってるプラネタリウムカフェ、行ってみない?地学室でやってて、評判いいみたいで!」

「ああ」

 藤宮くんは頷いて、私の横に並ぶ。


 途中普段授業では使っていない教室を案内しながらも、目的の地学室へと到着した。
 タイミングがよかったのか、私達はすぐに席へと案内された。室内はプラネタリウムを模していて、真っ青な教室の中で星々が綺麗に瞬いていた。

 私は紅茶とショートケーキを、藤宮くんはモンブランとコーヒーを頼んだ。


「ん~!このケーキ美味しい!!」

 ケーキの中でもショートケーキが一番大好きだ。苺、美味しい~!

 私が幸せを嚙みしめていると、藤宮くんがふっと優しく微笑んだのを見てしまった。その表情に驚いて、大事な苺を落とすところだった。
 動揺を隠すように、慌てて話題を振る。


「ふ、藤宮くんって結構甘いもの好きなんだね!モンブランってあまり男の子は食べないイメージだったかも」 

「まぁ、甘いものは結構食べるな。休みの度に、やたらケーキを焼きたがるやつが家にいるから」

「そうなんだ!」

 藤宮くんのお母さんのことかな?それともお姉さんや妹さんがいるのだろうか。

「私もクッキーとかパウンドケーキとか、簡単なものなら作るよ。はまると結構楽しんだよね、お菓子作り!」


 ふーん、と相槌を打った藤宮くんは、少しからかうように笑った。

「佐藤が作ったクッキー、食べてみたいな」

「へ?あ、うん!今度上手く作れたら持ってくるね!」

「楽しみにしてる」


 思ってもみない返答に、私の胸は不規則な鼓動を刻み始めた。

 甘いものに目がないだけなんだよ、藤宮くんは!私じゃなくても、きっと誰のお菓子でも食べてくれるんだよ。なに変に緊張してるんだろう。


 美味しかったはずの紅茶は、なんだか味がよく分からなくなってしまった。



 地学室を出て、引き続き今更な校舎案内をしつつ、二人でのんびりと歩いていると、後ろからぐいっと腕を引っ張られた。


「わっ」

「美音、やっと捕まえた」

「椿!」

「急にどこ行ってたんだよ。つーかまた藤宮と一緒…。用事って、藤宮との用事?」


 椿が珍しくむっとしたような表情をしている。


「藤宮くんとはたまたま会っただけで…。そんなことより椿!さっきの女の子はよかったの?」

「え?陸上部の出店の話してただけだけど。そしたら急に美音がいなくなるから」

「え。あれ?」


 部活の出店の話?文化祭一緒にまわろうとか、そういうお誘いではなく?私の勘違いだった?


「…よかったな、三浦と合流できて」


 なんだか投げやりな藤宮くんの言葉に、訝しく思いながらも私は頷く。


「あ、うん…」