恋がはじまる日


 私の怪我を心配してくれたのか、ただ本当に迷惑だと思って変わってくれたのか。
 今まで優しいのかそうじゃないのか、どっちなんだろうなと思ってはいたけれど、前者なんじゃないかな、と思う。心配して交代してくれていたらいいな、と思う。

 驚いたことに彼の包丁さばきはとても綺麗で、手慣れている感じがした。あっという間にざるの中に切られた野菜達が山積みになっていく。
 意外…家でも料理したりするのかな。そういえばバイトしてるって言ってたけど、バイト先で包丁使ってるとか?


 呆然とその様子を眺めていると、不意に藤宮くんが顔を上げ、ばっちり目が合ってしまった。

 私は慌てて自分の手元に視線を戻す。

 すごいな、藤宮くん。なんでもできちゃうんだなぁ。
 私、迷惑ばかり掛けちゃってるよね…。



「おー!めっちゃうまそうじゃん!これもう出していい?」


 家庭科室に元気よく入ってきた椿は、私達の作ったカルボナーラを見て絶賛してくれた。

 その視線が包丁を握り、野菜を刻んでいる藤宮くんに移動すると、彼は目を丸くして心底驚いたというような声を上げた。


「うわっ!藤宮が役に立ってる!」


 椿のストレートすぎる感想に、藤宮くんはむっとしたように言い返す。


「なんでお前らの中で俺は包丁も握れないやつになってんだよ。これくらい普通だろ」

 言いながらも彼は淡々と野菜を切っていく。


「お前ら?」

「佐藤にも言われた」


 若干睨まれたような気がするけれど、私は「あはは…」と苦笑するしかない。


「だって似合わないもんなー」

と椿も笑う。