恋がはじまる日


 小さい頃からなにかあると、椿はいつも私の相談に乗ってくれていた。家族よりも色んな話をしてきたかもしれない。大きくなるにつれて、段々と過保護気味に感じるような気はするけれど、彼も私と同じように、私を家族と同じくらい大切に思ってくれているんだろうなぁと思う。多分。そうだったら嬉しい。


「…ってことがあったのね、ちょっと失礼というかひどいというか、確かにぶつかった私が悪かったんだけどさ。それでちょっともやもやしてて」


 そう私が一通り話し終えると、椿は腕組みしながら眉根を寄せた。


「誰だよそいつ。この学校にそんなやついんのか」


 苛立ったように教室中を睨む椿。当然、その彼はいるはずもなく。


「どこかで見たことがあった気がしたんだけど…何年生だろう?」


 私が今朝の彼の容姿を思い出しつつ、首を傾げていると、


「今度会ったら俺が文句言ってやるからな」

と椿は意気込んでいた。


「ありがとう椿、話聞いてもらえてちょっとすっきりしたかも!」

 もう大丈夫!そういう気持ちも込めて、私は笑顔で返した。


 その感謝の言葉に椿は何故か一瞬どぎまぎして、それでもすぐに「おう!」と言ってにかっと笑った。


「……つーか、誰とも知らないやつに腰触らせるなよ…危なっかしいなぁ…」

「え?何か言った?」

「いや!なんでもない!」


 椿は慌てたように顔の前で手を大きく振っていたけれど、なにかぼそりと言っていたように聞こえたのは気のせいだったのかな。
 とにもかくにも椿に話を聞いてもらったことで、もやもやはすっかり消えてしまっていた。

 今朝のことは私が悪いのだし、もし万が一いつか会うことがあったら、ちゃんと謝ろう!

 気持ちを切り替えそう思ったところで、朝のホームルーム開始のチャイムが鳴った。