恋がはじまる日


 定期券の入ったパスケースは、教室の私の席の後ろに落ちていた。

 よかった、と安堵しつつもやはり若干の落ち込みは引きずっていた。

 先輩との下校チャンスが…、残念。

 悲しい気持ちに追い打ちをかけるように、外は土砂降りになっていた。


 あちゃあ、結構降ってきちゃった。


 靴を履き替え直したところで、スマホがぴこんと音を立てた。
 ポケットから取り出し画面を確認すると、菅原先輩からメッセージが届いていた。


『パスケースは見つかったかな?無事家に着いたら連絡ください』


 律儀な先輩だなぁ。こういうこまめな気遣いとかすごく女の子にモテそうなイメージがあるのだけど、先輩でも恋は難しいものなんだろうか。先輩が気になる女の子かぁ、どんな子なのかなぁ。


 なんてことを考えながら、折り畳み傘を取り出そうと鞄を開ける。


「あれ?」


 鞄に手を入れ探してみる。


 あれれ?

 鞄をひっくり返して探してみても、折り畳み傘は入っていなかった。


「あ、あれ?」


 そういえば今朝、お母さんが傘持って行きなさい、って言ってて傘、鞄に入れたっけ…?


 今度こそ教室に忘れた、などということは絶対になくて。


「傘…家に忘れた…」


 今日の私あまりにドジ過ぎませんか…。

 自分のあまりの情けなさに、私はがっくりと肩を落としたのだった。