あ!定期券の入ったパスケースが付いてない!教室に忘れた?どこかで落としたのかも。
「佐藤さんは、…」
と言いかけた先輩と、私の言葉が被ってしまった。
「先輩、すみません!」
「どうかしたの?」
菅原先輩は不思議そうに小首を傾げる。
「定期入れ、落としてきちゃったみたいで、ちょっと学校戻って見てきます!」
そう告げると先輩は、いつもの優しい笑顔で、
「僕も一緒に行くよ」
と言ってくれる。
「え!えっと…」
先輩と一緒に帰りたい気持ちはものすごくある。せっかく部活以外で憧れの先輩とお話ができるんだもん、こんな機会なかなかない。けれど…。
「ありがとうございます!でも、雨も降りそうですし、先に帰っていてください。せっかく誘ってくださったのにすみません」
「それはいいんだけれど、やっぱり僕も一緒に行くよ」
尚も食い下がってくれる先輩。本当に優しい人だなぁ、と感動している場合ではなくて。
「私、折り畳み傘持ってますし、大丈夫です!」
「あ、いや、」
先輩はまたなにか言いかけていたけれど、
「また部活で!」
と私は学校への道を駆け足で戻ることにした。
先輩ごめんなさい、先輩はこれから大事な試合を控えているし、受験勉強だってある。雨に濡れて帰って、体調を崩したなんてことになっては、マネージャーとして失格なのです。
そう弁解しながらも、せっかく憧れの先輩と帰れるチャンスを棒に振ってしまったことと、いつからか消えていたパスケースに気付かなかった私のおっちょこちょいを少し嘆いた。



