恋がはじまる日


 借りていた本を返却すべく図書室に寄ると、室内に入った瞬間にぴりっとした空気を感じる。たくさんの生徒達が机に向かって問題集と睨み合っていた。受験勉強の先輩達や宿題を済ませて帰ろうとする生徒達かな。そういえば先輩達の学力模試がそろそろだったかも。

 そう思い出しながら勉学にはげむ生徒達をちらっと見ていると、その中でもゆったりとした空気をまとい、参考書を読んでいる生徒がいた。


 サッカー部部長の菅原先輩だ。


 先輩はすぐに私に気が付いて、にこりと微笑みながら手を振ってくれる。私も慌てて会釈で返した。

サッカー部は今日練習がお休みの日だ。先輩もゆったり過ごしているのだろう。邪魔をしては悪いので速やかに返却手続きを済ませ、図書室を出ることにする。が、


「佐藤さん」

と小声で先輩に呼び止められた。


「佐藤さん、今日はもう帰るの?」

「はい」


 同じく小声で答えながら、何故か先輩も私と一緒に図書室を出てくる。邪魔しちゃったかな。そう思いながら先輩の顔を見ると、にこりと微笑んでくれる。


「よかったら一緒に帰らないかな?ちょうどもう帰ろうと思っていたところだし…どう?」


 先輩と部活以外の時間を一緒に過ごすことは滅多になく、少し驚いたけれど嬉しいお誘いだったので、元気よく頷いた。


「はい!ぜひ!」