恋がはじまる日


「藤宮くん!」


 そそっかしいとかどんくさいとか、またからかわれたりするのではないかと、一瞬身構えてしまう。


 すると彼は残りのノートをあっという間に拾い、最後の一冊をノートの山に置いた。


「気を付けろよ、俺が持って行く。どこ?」

「え、あ、社会科教務室に」


 そう答えると藤宮くんはノートの山を抱え、さっさと歩き出す。


「あ、待って!」


 慌てて後ろから声を掛けると、「何?」と不機嫌そうに返される。いつもこんな感じなので、最初は怒っているのかなと思っていたけれど、多分別に怒っているわけではなくて、基本的に人との接し方が不器用な人なのではないかと思う。ノート持ってくれてるし。この前も勉強教えてくれたし。最近少し分かってきた気がする。


「持ってくれてありがとう!でも半分持つよ!日直私だし!」


 私の言葉を聞いていたにも関わらず、特に返答することなくそのまま踵を返すと、また歩き始めてしまう藤宮くん。


「え!ちょ、ちょっと待って!」


 そのまま彼は私の言うことを聞いてくれず、私はただただ彼の隣を歩くだけの形となってしまった。



教務室に到着し、担当の先生の机の上にノートの山を置いてもらう。


「藤宮くん、持ってきてくれてありがとう!」


 もう一度改めてお礼を述べると、今度は返事があった。


「別に。重いならその辺の男子に頼めばよかっただろ。幼なじみとか。お前が頼めばあいつは何だってやってくれるだろ。バスケだって張り切ってたし」

「え?バスケ?」


 さっきの体育のこと?藤宮くんにも私の声聞こえてたんだ。声大きかったのかな。


「そんなことないよ。それに一人でも大丈夫かな?って思って。でもやっぱり重かったや」

 そう情けなさに少し照れながら苦笑する。


「なら次からそういう時は、」


 そう何か言おうと口を開いて、しかし藤宮くんはその続きを言葉にはせず、代わりに浅くため息をついた。

 また呆れられちゃったのかな。


「えっと、それじゃあ私、図書室に寄って帰るから、また明日ね。運んでくれてありがとう!」

 その言葉に特に返答はなく、私はそのまま彼の横を通り一人図書室へと向かった。