恋がはじまる日


 椿が食べ終わったところで、ようやく勉強を開始した。課題が出ていた英語をさくっとやっつけて、本題の数学へと向き合う。


 よし!やるぞー!


 気合を入れようと、カーディガンの袖を捲る。

 数学は二年生になって、ますます難しくなったような気がする。一年生の頃から苦手意識のある私には、少々手に余るものがあった。やはりというべきか、問題集を始めて早々に行き詰ってしまう。


 さっきのことで藤宮くんに話しかけるのはちょっと勇気がいったので、二人に聞こえるよう声を掛ける。


「あの、ちょっとここが分からないんだけど」


 数学の問題集の問5を指差す。


「どれ?」

と椿が向かいから身を乗り出してくる。


 藤宮くんも少しだけこちらを向いて、私が分からないと指差した箇所へと視線を落とす。


 なんだか指先が変に緊張してきた…。


「この途中式なんだけど、どうしてこうなるのかな、って」


 勉強に集中するため、勉強のことだけを考えようとなんとか意識を数字へ向ける。


「あー!そこね」と椿はさも簡単だと言うように話し始める。


「これはこの公式を使うんだよ、んで、公式の通りに解いていくと、この途中式を通過する!簡単だろ?」

「?!」


 彼は自信満々に説明してくれたが、当の私には全く理解できていなかった。


「この公式だよね?使ってもこの途中式が出てこないんだけど…」


 もう一度解いてみようと、ノートにペンを走らせる。
 しかしやはり教科書に載っているような途中式には遭遇せず、あまつさえ解答すら違っている。私の理解力が足りないのかな、と少し落ち込む。